2010年2月20日土曜日

もう一つの二月十四日


バレンタインデイというのは、恋人たちを守った
キリスト教の聖人が殉教した日であるとのこと。
八百年の昔、日本でも和暦の二月十四日、
愛に殉じた一人の女性がおられました。
小宰相局(こざいしょうのつぼね)と呼ばれた方です。
彼女とその夫、平通盛(たいらのみちもり)との恋慕、
そして悲劇的な最後を描く能『通盛』。
「TTR能プロジェクト 春公演」にて拝見してきました。



会場は大阪能楽会館。久し振りの大阪です。
梅田界隈は阪急百貨店が高層ビルになり、
JR大阪駅は大改装中。風景が一変していました。

さて、能『通盛』。義経の奇襲により多くの公達が
討たれることになる須磨、一ノ谷。通盛はこれまで
行動を共にしてきた妻に、自分の最後の近いことを語り
都に帰って忘れなかったら、亡き後を弔って欲しいと頼む。
今生の別れ。「名残惜しみのお盃 通盛酌を取り」
互いに語り慰め合う処に、舎弟の能登乃守教経が
荒々しく呼ばわる。「通盛ハ何処にぞ など遅なはり
給ふぞ」。その声の恥かしさ。

「暇申してさらばとて 行くも行かれぬ一の谷乃
所から須磨の山乃 後髪ぞ引かるる」

行くも行かれぬという心の葛藤こそが修羅の本態か。
通盛は近江の国の住人、木村の源五重章と刺し違え
最後を遂げる。小宰相局は一門と共に都から更に遠い
阿波の鳴門へ落ち延びる。通盛戦死の知らせを
信じようとしなかったが、やがて彼の従者が来て
最後の様子を語ると泣き伏してしまう。

鳴門の海に入ろうとするのを、一旦は乳母に止められるけれど、
その目を盗んで敢行してしまう。引き上げられたものの、すでに
息は無く、亡骸は通盛の鎧を着せて再び海に沈められたという。
それが二月の十四日であったとのことであります。

後場、軍装の通盛と女房姿の小宰相局が現れ、
修羅道の苦を語りますが、キリの場面では法華読誦の功力に
より成仏得脱を得て終わります。その時、常座に二人が並んで
ワキ座の僧に合掌するシーンが絵的に珍しく、華麗で美しいと
感じました。

昨年末に味方健師の『通盛』を拝見したばかりで、
一層興味深く鑑賞させて頂きました。

旧暦〔睦月七日 一月中雨水〕

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